[くまをとる]

韓国の情報化事情

11/12
IECP 研究会
『韓国のブロードバンドの最新状況と評価』
世宗研究所 日本研究センター 高選圭氏(情報科学博士)

日本にもいたことがある、韓国の研究者の高さんがGLOCOMで韓国のブロードバンド政策についての話をしてくれました。すごいおもしろかったので、記録をここに上げます。この会の概要については、こちらを参照して下さい。

(当然ですが、内容についての責任は全てぼくにあります。内容には誤解やミスのある可能性があることを、あらかじめお断りします。)

書き終わってから気がついたんですけど、高さんは「FTTH」と「ブロードバンド」を別の意味として使っていて、ほぼブロードバンド=ADSL/VDSLの意味で使っているようだ。ログを読む場合は注意。

★韓国の最近のインターネット関連政策から
韓国のインターネット政策は、1998年5月に国家情報化促進法案策定から始まっている。97年の経済状況の破綻から、政府がそれ以前のやり方を否定、新しいやり方に基づいて経済再生を行うという意思表示だそうだ。そのころの韓国はいろいろと大変だったらしい。

98年にThrunet.comという新通信事業者が設立。次にHarano.comがADSLがサービス開始。それ以前はKorea Telecom(KT)が日本のNTTのように韓国の支配的事業者だった。今は3つの事業者が三つどもえでがんばっているとのこと。今は3500円でVDSLのサービスが受けられる。3つの事業者は補助金を受けていて、ある程度の安全が保証されているという。

2000年には1000万人IT教育計画。同じ頃、日本でも総務省がやってたなあ。日本は人口が倍で教育対象は半分だったけど。。。小中学校にも無料インターネット普及。教育コンテンツ事業者が競ってサービスをするなどの別の意味での大きな影響もあったらしい。2002年11月に電子政府のサービスも開始した。

★次に韓国のインターネット普及事情
ADSL以上は100%の町村地域に普及。超高速インターネット加入者1110万とのこと。これは実数で日本と同じなので、日本の普及率は韓国の半分だということになる。農村地域への普及については、政府の「促進基金」を利用して支援をしたとのこと。日本の政府はそういう面では消極的で、いくつかの省庁が別々に自治体に対してつけているが、あんまり強力ではない。ただ、これはどっちがいいのかは簡単には判断できない。

インターネットバンキングや株取引も盛んで、株取引の70%近くはオンラインで、銀行もかなり使われてるようだ。預金照会の85%、振り込みの14%がオンライン取引だそうだ。ただし、貸し出しは0.1%で、これはまだほとんどオンライン化はされていない。

★なぜ成功したか?
高さんは、韓国の成功の要因を、政府主導で力を入れたこと、集合住宅をうまく利用したこと、高い教育熱、それからオンライン株取引がキラーアプリケーションになったと分析している。それから、韓国の国民性として、「隣の家に負けたくない」「子供の友達を呼ぶためには、その友達の家と同じくらいのインターネット環境を持ってないといけない」なんていうこともあるそうだ。奥さんの間で自慢する生活の質の基準は昔は「家の大きさ」で、子供同士で「うちの家は何坪だ」なんて言ってたらしいが、今では「Cyber APT(サイバーアパート)」に住んでいるということなんだそうだ。こういう盛り上がりは、日本にはありませんね。アメリカにもないんじゃないかな、よくはわかりませんが。他は何か言えるほどは知りません。

★「情報化促進基金」
情報化促進基本法を根拠にして、税金、通信事業者負担金、借入金から構成されている。特別財源として扱われている。通信事業者負担金があるところなんか、ちょっとユニバーサルサービス基金ぽい。でも投入する領域はもっと広いみたいだ。

★写真シリーズ
情報キオスクの写真。役所の証明書なんかを、日本のコンビニに置いてある銀行ATMみたいな端末で取れる。指紋で本人確認してるぞ。おそろしい。韓国では18歳以上の国民は全部住民登録票を持っていて、その指紋を全部国が持っているらしい。これをデータベースにしてるらしい。

国が持っている指紋のデータベース、登録証(IDカード)に乗っている指紋、本人の親指の指紋(バイオメトリクス)の3つが一致すると、情報キオスクで書類を発行できるらしい。むむう。

このせいで、韓国で悪事をはたらきたかったら、他の人の親指を取ってきてそれでなりすましすればいいなんて話が出てるらしい。どんなところでどんなレベルの冗談として言われているかは不明。

PC房の話。要はインターネットカフェで、一時間200円くらいとのこと。夜は朝まで500円で、終電を逃すと止まったりするらしい。日本のマンガ喫茶と同じで、椅子も豪華。カップラーメンなんかもある。日本で言えばおもいっきりマンガ喫茶ですけど、日本よりはるかに数が多いらしいです。

★モバイルバンキング
モバイルバンキングの画面。飲みに行ったお金を割り勘にしたりするのに使える。今は出前の決済も携帯電話+特殊端末で、クレジットカード決済するしくみがあって、それで決済したりするらしい。タクシーでもカードで決済できる。カードを持ってない人は、さぞ不便に違いない。。。

★公衆インターネット端末
駅なんかにも、コインを入れると使える公衆インターネット端末があるらしい。ちょっとゲーセンのゲーム機っぽい。15分50円。高いか安いかは微妙だ。

しかし……。この端末の更新どうするんだろうな。
ヨーロッパのビデオテックスが一時話題になりながら負け組になりましたが、これの理由は端末の更新に会ったんじゃないかという気がしているんです。みんなに一斉に無料で端末を配ったのはいいが、それは全部9600bpsのモデム搭載のださい端末。しかもこういう配り方をすると、端末の更新なんてよほどのことが内限りできない。
一斉に中央から整備した端末は、更新するのが大変だ。でも陳腐化するのは早い。結構大きな問題になるんじゃないかなあ。

★地籍データベース
地籍データベースの画面。土地に関する権利関係なんかをデータベース化してて、権利確認なんかに使う。これもいろんな意味ですごいね。日本ではいろんな理由から難しそう。

★次世代インターネット基盤構築の話題
PPTの画面にはIPv6とか、有線と無線の統合、ユビキタスなんてキーワードが踊っているが、話題になってるのはホームオートメーションらしい。この辺は日本と同じだ。日本も韓国も、だいじょぶなんだろうか。しかし、韓国はすでに始まってるインターネットバンキングとか鉄道のサービスとかそういうのを、パソコンとかが分からない人でも簡単に使えるようにしようという視点が含まれているらしい。もし、サービスが先にあるのなら、地に足がついた感じでまだうまくいくかも知れない。

★電子政府、行政サービスの話
国連の各国の電子政府サービスのレベル分けでは、5レベルまであるうち、韓国は4レベル。日本は3レベル。アメリカやシンガポール、イギリスも4レベルだ。

各種証明書を自分のパソコンから出力できるということ。これはすごい! 偽造防止のシステムが必要だからだ。後ほど詳しいシステムが説明される。これが出来れば、お札もプリンタで印刷できるんじゃないの?

住民・戸籍・国税でシステムを共同利用していて、添付書類をいろいろ廃止してるとのこと。納税者の24%が電子納付。証明書も電子的にやってるらしい。政府の電子入札91%、購買97%が電子化。国民年金、産災保険、健康保険、雇用保険が連携してワンストップサービスに。自治体の住民・車両・戸籍の電子化も行われていて、これは日本の住基ネットですね。

個別の変更や成果はホントにいろいろありすぎて、全部はここに書ききれないくらいなので省きます。
印象としてすごいなと思うのは、1) 認証システムをちゃんと作っていて、それを国がやっちゃってること。これは、ホントにこれでいいのかなあって気もする。2) 国がかなりの情報を電子化して統合して利用しちゃってること。もちろん理屈では効率よさそうだが、セキュリティ問題、プライバシー問題がいろいろ出てきそう。プライバシー問題はやっぱり話題になっていて、例えば健康状態に関する情報なんかは統合しないようにしようなんて議論が去年起こっていたらしい。

ここまでこんな勢いでやっちゃっていいのかというくらい、国主導で、過激だというのがぼくの印象だ。

★自治体情報化事情
90年代以降、韓国では民主化が進んでいて、地方自治制度ができ、首長の公選が始まった(そのまえは中央からの任命制)。これと社会の情報化が時期的に重なっていて、選ばれた首長が情報化に積極的に取り組んだという。

★自治体情報化の2003年の目標
データベースの共有・統合、それを住民に使ってもらうサービスの拡大が大きな目標。

★ソウル市事情
ソウル市はCIOを99年に設けて、情報化関連決済は全部CIOを通さなくてはいけないことになった。これによって、それ以前にはいろんな部局が重複してやっていた事業を、統合することができたということ。予算の1.2%が情報化予算(総額は11兆ウォンくらい)。

★ソウルの地方税
もちろん:) 電子的に納付出来る。通知書で知らされた番号をページに入力して、確認ボタンを押すと、納付すべき税額がページに表示される。そこで本人確認をすると、銀行口座かクレジットカードで税金を払える。税納付システムがクレジットカードと連携しているというのもなにかすごい感じがするが、考えてみれば税金だって銀行や郵便貯金から自動引き落としできるんだから、できても当然かも知れない。

一括払いすると割引もある。自動車税をインターネットで払った人から抽選で車が当選したりする。これも行政がやっちゃうというのがある意味すごい。日本もこういうの、許しちゃえばいいのに。

これについての高さんの評価は、住民側もコストが低くなるし、行政側も相当なコストを削減できる。紙も削減できていいことばかりだという評価だ。

★許認可をオープンにするシステム(ソウル)
行政の許可をもらうためのシステムで、「オープンシステム」と呼ばれている。行政の中でどういうプロセスで許認可が行われるかをオープンにしていて、申請者の名前と受付番号を入れると、申請したものが今どのプロセスにあって、いつ許認可がでるかということがわかる。韓国では、昔行政の許認可のプロセスが不透明で、付け届けをして許認可をしてもらったりそれを早めたりという腐敗があって(どのくらいの深刻度なのかは、よくわからない)、それを解決するという意味合いがあるらしい。誰がいつ決済をしたかということまで、全部記録があって、検索可能で、住民がわかってしまう。

成功要因として、高さんは市長のリーダーシップを挙げている。これは、市長が当選するときの公約だったそうだ。組織内からは相当な反発があったらしいが、市長は直接市民に選ばれているということと、人事権があるということで、こういうことができたのだという。行政側にもメリットはあって、電子決済と連携させたり、フォーマットの統一を行うことによって、効率化できたりしたし、何かうまくいかないときは何が悪いのかが一目瞭然になったりしたとのこと。住民からの信頼を得たらしい。

★情報化高速道路の構築(e-Seoul net)
2000年-2003年にかけて構築された、総延長180kmの光ファイバネットワーク。うち160kmは地下鉄を利用。今までKTに巨額の回線使用料を払っていたが、これで年間36億円の予算を節約したらしい。時期としては岡山情報ハイウェイよりは後になるが、日本のいろんな試みと比べてもかなり早い時期だ。ちょっとこれはマジメに調査しておく必要があるかもしれない。

★港南区の話
港南区ポータルサイトは、会員制で運営していて、13万人の会員を持っている(住民の24%)。これを利用して頻繁にe-mail世論調査をやっている。

区の行事や幹部会議、議会放送を毎回インターネット放送を通じてリアルタイムで中継。しかも、住民がそれに関する感想を述べるコーナーがある! これを首長がやろうとしたら、強い反対にあったそうだ。しかし、首長が「住民に公開できないような仕事の仕方をしてはいけない」ということで、反発を押し切って採用したとのこと。これとポータルサイトの住民投票などが組み合わされると、かなり強烈な、えーと、「インターネットを利用した自治」が行える。(e-デモクラシーという言葉は、陳腐化してきたしいろんな人がいろんな意味をつけているので、ちょっとここでは使わないことにしよう)

★プリンターで証明書を出すぜシステム
600dpi以上のプリンタを使えば、自分のパソコンから公式書類を出せる(閲覧用ならどんなプリンタでも可)。書類の有効期間は60日。手数料の決済は、クレジットカード、銀行口座、携帯電話からできる。偽造については、二次元バーコードを使った認証と、書類の番号を利用する。番号があることで、その書類を受け取った人は役所にアクセスして中身の真偽を確認することが出来る。こういう方法だとすると、お札の印刷はだめそうだ。残念。

二次元バーコードを利用した部分がどうやって真正性を提供するのか、残念ながら一瞬席を外したので聞けなかった。ここに興味があったんだけどな。余裕があったら調べてみます。

★韓国ブロードバンド政策の評価
高さんの評価です。政府のリーダシップが強かったこと、リーダーシップを発揮するタイミングがよかったこと。促進基金を作って必要なところに支援を行ったこと。速さを重視してADSLを中心にインフラの整備を事前に十分行ったこと。高さんの意見では、日本がFTTHを重視して結果として普及が遅れたのは失敗だったのではないかと評価している。

問題点についても。それぞれの部局が利権を手放さなかったため、重複投資が多かった(ただし、各部局が競争することによって勢いがつくという効果もあった)。部局やサービス間の横の連携も薄く、コストパフォーマンスが悪いという問題も出てきていて、現在大統領直属の横に調整するための組織を作って対応中。

★質疑応答
日本では、作る前からいろんな議論が起きたりしてなかなか進まないのだが、韓国ではどういう風にそれを克服したのかという質問。「日本は信号つきの高速道路を作ろうとしている」といわれてるらしい。韓国では国に対する信頼感が強いとのこと。国が個人の情報を使うことについては、安心しているそうだ。ただ、住基カードのようなものを作ろうとして、プライバシー問題で失敗したこともあるとのこと。セキュリティやプライバシについては国民は今まで、あまり意識せずにやっていたが、最近では自己認識が強くなってきていることも一因。それから、「やってみなければわからない」という意識が浸透していて、出てくる問題はやりながら直す、というスピード重視という考え方をされていて、日本とは意識が違うそうだ。

これに対しGLOCOMの青柳さんが、昔金融システム審議会というところで、東京大学某教授がセキュリティに関する状況を話し、「慎重にやってくださいよ」という話をしたことがあった。そしたらある銀行関係の人が「そんな話は聞きたくない、そんなことは毎日やっている。欧米では、6、7割うまくいくとなればとりあえずやってみるのに、日本では9割でなければいけない。これが日本の一番の問題だ」と言ったというエピソードを披露。

いろんな経験から、まったくその通りだ、と思う。ただ、のろのろしているせいでうまくいく場合だって、あるかもしれない。一概に否定はしたくないという気も、ちょっとする。これについてはそのうち機会を持って考えてみたい。

(ちょっと中座のため欠落)

質問はわからないけど、答えの話。韓国では、サービスに対する対応がすばやくて品質が高い。これは、国民がみんな事業者が補助を受けているということを知っていて、悪い対応に対しては、国にクレームをつけているためだそうだ。

外部CIO導入のに関する質問。BPRはどうすすめているのか、CIOが持っている権限が大きいがそれに対する評価はどういう仕組みで行われているのか、中立性が要求されると思うが立場の独立性はどう確保されるのか、という3点。それに対し、CIOは重複を避ける・融合性を取る・部局間の協議会のようなものがあって、そこで出てきた問題に対して調整をするなどの役割がある。オープンシステムに関し言えば、オープンシステムに関わる職員の仕事の状況に関する進行状況(1000人の中で、何人がどれくらい決済が遅れた、とか)が報告されて、それを元に仕事の集中状況などを分析して、BPRに生かしたりしているらしい。で、CIOっていうのは行政の仕事の経験のある大学の先生を採用する。市長直結であり、行政とのしがらみのない人を選んでいるため、揉め事はないようだ。CIOの評価については、特に仕組みはないが、任期(2年)があり、一回までしか延長できないということである程度抑制する仕組みがある。

証明書のパソコン出力に関して、どう証明するかという話。個人認証については、いくつかの組織の間で認証情報の連携が行われており、どこかに登録すれば個人認証できる。偽造防止については、そのための専用システムがある。

IT教育の内容はどんな風だったかという質問。ほとんどの町に地域コミュニティセンターにパソコン教室があって、講師を募集して、まず講師に教え方を教えて、地域住民に教育を行った。学校のIT教室も地域住民に公開している。インターネット高齢利用者コミュニティをNPOのように作っていて、高齢者の人はそういう高齢者があつまるコミュニティが運営するコースでIT教育を受ける。それを行うと、一人当たりいくらということで、国から委託費用が払われる。これが高齢者NPOの運営資金になっている。高齢者や障害者はパソコンを買うお金がないことが問題になっていて、これは公共機関が使っていたパソコンを譲ったりする方法が取られている。農村の場合は、村ごとにITリーダーがいて、冬になると公民館で教育を行ったりしている。

リーダシップについて、韓国はどう進めたか。またインフラ整備について日本では人口カバー率は90%を超えているのだが、情報過疎地域のミドルバンドの普及は遅れているが、韓国ではより状況が悪そうだがどうやってカバーしたのか、という質問。リーダーシップについて、電子政府については、政府委員会や「国家革新委員会」(ITを使って国の組織を変えていくためのもの)で、大統領のバックアップを元にリーダーシップを発揮した。韓国では、大統領の公約が強い意味を持っていて、それを実現するためのタスクフォースを作っており、大統領と連絡を取りながら進めている。それを国民にアピールすることもしている。過疎地域の問題については、過疎地域を情報化する「情報化村事業」という事業がある。国と自治体がやるのだが、地方交付税の一部を国がピンハネして、情報化村事業への予算に使う。KTに補助金を出して、電話線をADSL化をさせていて、村の情報化を進め、たとえば村の名物をウェブで売ったりしている。年間100くらいの自治体を対象としている。この場合、村にはITリーダーを設ける必要がある。

いろいろ思ったことはありますが、とりあえず記録のみ。

コメント(9)| Track back(0) | 2003-11-12 17:45:15

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