[くまをとる]

winnyを肯定的に議論する

5/10午前に、winnyの制作者が逮捕されたというニュースが飛び込んできて、いろんな場で議論が進行中だ。winnyは2ちゃんねる(以後2chと呼ぶ)から生まれたP2P型のファイル共有ソフトの一種で、非常に多くの人に利用されており、一時は利用者が100万人を超えるとも言われていた。そこでは著作権侵害にあたるファイルの交換が一般的に行われていることが問題視されており、昨年11月27日にはwinny利用者が著作権侵害の疑いで逮捕されている。

現在多くのところで現在進んでいる議論は、winnyの開発の違法性という観点で行われている。しかしここではあえてもっと広い見方をして、winnyの功罪、特に功績の部分に焦点を当ててみたい。winnyとは何なのか、どうしてこんなに騒がれるのかを考えてみるためだ。

■winnyの出自と開発経緯
winnyは2chの「MXの次はなんなんだ?」というスレッドの中で初めて言及されている。2002年4月1日に、そのスレッドの47番目の記事で、「暇なんでfreenetみたいだけど2chネラー向きのファイル共有ソフトつーのを作ってみるわ。もちろんWindowsネイティブな。少しまちなー。 」と書き込まれたのが最初だ。(この発言番号にちなんで、winnyの作者はこれまでずっと「47さん」とか「47氏」と呼ばれてきた。この記事では、彼を47氏と呼びたい。) これはWinMXの利用者摘発後、4ヶ月ほど経った頃だ。

それからリリースまでの間、47氏はしばしば2chで開発経緯を知らせ、それに多くの人がコメントを寄せるという形で進んだ。5月6日にwinnyは公開され、多くの人に利用されることになる。winnyは非常に頻繁にバージョンアップされたが、利用者の多くはすぐにその更新版を入手した。winnyは昨年11月の利用者の逮捕時点でバージョンアップを停止しており、その時点から制作者本人からのソフトウェアの配布は行われていないが、それまでの間に実に236回ものバージョンアップが行われた。平均して週に3度はバージョンアップが行われていることになる。広く無料で公開されているソフトウェアがこれだけの頻度でバージョンアップされることは希で、非常に熱心に開発が続けられていたことを示しているし、それに利用者が即座についていったとことに、winnyの絶大な人気を見て取れる。

47氏は何のためにこのソフトウェアを作ったのか。これについては、47氏が最初のバージョンのリリース直前の2002年4月30日の書き込みで、こんなことを言っている。

「まぁ、そろそろ匿名性を実現できるファイル共有ソフトが出てきて現在の著作権に関する概念を
変えざるを得なくなるはず、あとは純粋に技術力の問題であって何れ誰かがその流れをブレイクさせる
だろうとは思ってたんで、だったら試しに自分でその流れを後押ししてみようってところでしょうか。

純粋に暇つぶしの腕試しです。

私なんてたいしたこと無くて、この程度作れる人は日本人でもかなりいるはずですが、実際に表に
ブツを出す人少ないんで、こういう方面でも日本人にがんばって欲しいというのもあります。」

この時点では、winnyがここまで流行すると予想した人は、本人も含め誰もいなかっただろう。そのことからすると、これは本音なのではないか。47氏はずっと匿名で行動しており、何らかの金銭的な報酬や、実生活での名誉の面での見返りがあったとは考えにくい。つまり、現行の著作権の概念への疑問と「腕試しをしたい」という気持ちが47氏を開発に駆り立てたのではないかと思われる。著作物を違法コピーして儲けようとか、名前を売ろうなどとしていたわけではなさそうだ。

金銭などの報酬もなく自発的に開発をはじめ、支持してくれる利用者との密接なコミュニケーションの中で完成度の高いソフトウェアを作り出したことは驚くに値する。

■現行の著作権制度への問いかけ
47氏は直接的に著作権侵害をするためにこのツールを利用してよいと発言したことはない。ただし、今の著作物のあり方については疑問を抱いていたようで、そのことに対する問いかけのためにwinnyを作ったという意味の書き込みがある。たとえば、公開から5ヶ月ほど経った2002年10月3日の47氏の発言をから、少し抜粋してみよう。

「...ここで注意ですが、私はソフトウェアはタダであるべきとか、音楽その他の著作物が
全てPDSであるべき(=クリエータただ働きすべき)と考えているわけではありません。
Freenetの作者のように個人の自由な発言権利がどーのこーのいう気もありません。

言いたいことは、何でもかんでもデジタル化して遠隔地に無劣化コピーできるこの時代、
今の著作物に対する課金システムはもう古いんではないのか?ということです。
<中略>
もちろん、現状で人の著作物を勝手に流通させるのは違法ですので、
βテスタの皆さんは、そこを踏み外さない範囲でβテスト参加をお願いします。
これはFreenet系P2Pが実用になるのかどうかの実験だということをお忘れなきように。...」

無論、47氏が著作権法上問題のあるコンテンツや、いわゆるわいせつ動画などが大量にやりとりされていたことを知らなかったはずはない。自分の作ったツールで違法行為が行われていたことは知っていたろう。にも関わらずこのような発言をするのは、(善意に解釈すれば)ツールの使い方は利用者の責任において自由であり、ツールの提供者が規定すべきものではないと考えていたのかもしれない。彼の発言を追っていくと、「いくら制度を守ろうとしても技術的な抜け穴があればその制度は意味を失っていき、新たな制度を作る必要がでてくる。これは必然的に起こることで、winnyはそれを少し早めているに過ぎない」と考えていることがわかる。発言の中で、47氏は何度かソフトウェアやその他の創作物の作者が報酬を得られるような新しい枠組みについてアイデアを述べている。そのアイデアが実現可能かどうかはともかく、彼は創作物はすべて無料であるべきだなどという考えは持っていないと断言してよいと思う。

そして、利用者はwinnyによって、著作物に何が起こるのかを体験することができた。winnyの場を利用して、二次創作物を作る人たちも出現した。例えば、winnyで流れている字幕のない洋画に、勝手に字幕をつけて流す人たちなども現れた。彼らもまた金銭的には全く見返りもないまま、ものを作る人たちだ。

利用者の多くはwinny利用者と47氏の逮捕劇を見て、大いに著作権や創作することについて考える機会を持ったに違いない。技術の変化と情報社会の進展とを考えたとき、今の著作権の枠組みは窮屈すぎるというのは、僕も全く同意見だ。そしてこの先の社会を考えなければならないとき、winnyのような実例を見ながら議論できるというのは有意義なことではないだろうか。

■winnyの見せる新しい世界
winnyはひとつの新しい世界を見せてくれた。広帯域常時接続で互いに接続されたコンピュータが、好きなときになんでも取り出せる一つの情報空間を提供する世界だ。誰かが持っている情報なら、手元から消してもいい。なぜなら、欲しいときにはまたいつでも手にはいるからだ。

ほんの5年ほど前、欲しくもないファイルをダウンロードすることなどあり得なかった。それは帯域が狭く、通信料金も高かったからだ。しかし、ネットワークの利用モデルはネットワークの環境によって変わる。winny利用者は関係があるかもしれないものを大量にダウンロードしておいて、関係ないものを消すといった使い方もするようになった。winnyは恐ろしいソフトウェアで、例えばキーワードを設定しておくと、ファイル名がそのキーワードに一致するファイルを順番にダウンロードする。これを放置しておくと、指定したキーワードを含むファイルをずっとダウンロードし続ける。一日に5GB、10GBとファイルのやりとりをしたことのある利用者も少なくないだろう。(これによってISPは悲鳴を上げたわけだが) winnyは、広帯域・定額のネットワークと大容量の記憶領域(近年ではHDDは安くなった)があるとき、それをどのように生かせるか、そして人はそれをどう使うか、そこにはどんな情報空間ができあがるのかという壮大な社会実験だったように思える。

今でも、仲間内の間では、FTTHを使い切ることのできるアプリケーションはwinnyしかない、と話している。winnyは、初めてネットワークを「生かし切る」分散アプリケーションなのである。

■思想の表現としてのwinny
47氏の著作物に関する考え方を振り返ってみると、winnyそのものが大変美しい「思想を創作的に表現したもの」に思えてくる。47氏の考える著作権のあり方や情報共有の仕方が、機能するプログラムとして表現されているわけだ。僕はプログラムを著作物として扱うことには違和感を感じていたのだが、winnyのようなものこそ、著作物としてのプログラムと言えるのではないか。

そう考えると、winnyの配布を問題視することは言論の自由を侵しているように思えてくる。「知的財産」として金銭的な権利を守る文脈では「プログラムは著作物だ」と言っておきながら、このように思想性のあるプログラムはその表現としての価値を認めずに封殺するというのは、どこかおかしい。

■winnyを肯定的に議論する
ここまで、いくつかのwinnyの功績を挙げてきた。証明こそできはしないが、僕は、winnyがあれだけ多くの人に支持されたのは、単に映画やソフトがただで手に入るからではなかったと思う。winnyが作られ改良されていく過程、そこに込められた思想、winnyが見せてくれる新しいネットワークの使い方など、様々な点でwinnyは優れていたし、何より口や文章だけではなく、それが動くものとして手にはいるということは素晴らしいことだった。ここでは技術的なことはあまり議論しなかったが、仕組みとしても面白いし、これだけ多くの利用者によってテストされながら微調整を繰り返した非常に希なP2Pソフトとしても、winnyには大きな価値がある。それをみんなが多かれ少なかれ認めているからこそ、winnyは騒がれるのだと僕は思う。

winnyで違法行為をした人が多くいるということは事実であり、それはそれで議論されなければならないだろう。47氏のしたことは著作権侵害(ほう助)かもしれない、それは起訴されればこれから法廷で結論が出るだろう(個人的にはこれが違法であって欲しくはないと思うが)。しかし、それだけでwinnyが提起したことをすべて否定してしまうには、winnyがもたらしたものは大きすぎると思う。違法行為をきっかけにwinnyに関する議論が正面からできなくなるのはあまりにもったいない。

winnyを肯定的に議論する雰囲気をぜひ作っていきたいと考えている。

2004/5/10
国際大学GLOCOM
石橋啓一郎

この話については、珍しく積極的に広めて仲間を見つけたいと思っているので、気に入られた方はぜひリンクしてください。

コメント(9)| Track back(0) | 2004-05-10 23:20:13

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