[くまをとる]

winnyとfreenetの関係(そのココロ編)

winnyを理解するため、freenetの目的なんかについて書いておく。winnyはfreenetを参考に作られた、とときどき書かれているわけだが、報道なんかを見ているとfreenetについてはあまり知られていないようだ。実は、winnyは仕組みにおいてfreenetのアイデアをかなり色濃く取り込んでいるだけでなく、その思想も一部受け継いでいる。

最近、立場として47氏を褒めているのかけなしているのかわかりにくくなっていますが、答えを書いておくと、「複雑だ」というところでしょうか。

最近winnyネタばかりで他の話をほとんど書いていないが、書いておくべきだと考えていることがいろいろあるので、しばらくは間欠的に続きます。悪しからず。さすがにwinnyに関する話題は深くて広範にわたっていて、数回2、3千字の日記を書いたくらいでは全く書ききれないのです。

今日は引用ばかりですがお許しくだされ。

★freenetのココロ
僕が説明するよりここにfreenetに関するFAQがあるので、そこを読んで頂いた方が詳しくわかるだろう。ここでは非常に簡単にだけ説明しておく。

freenetは非集中分散型の情報保存・検索のためのシステムであり、匿名性を保証するところに特徴がある。freenetの工学的特徴をまとめた部分があるので、引用しよう。


・Freenetにはいかなる中央集権的規制や管理も存在しない。
・Freenetから強制的に情報を削除することは仮想的に不可能である。
・このシステム上に保存される情報の著者と読者は望めば匿名でいることができる。
・情報はどこにそれが保存されているか特定できないような方法でFreenet上に分散される。
・誰もが情報を公開できる。ドメイン名や永久インターネット接続を購入する必要がない。
・情報の入手可能性はその情報に対する需要に比例して増加する。
・情報は需要が低い場所から高い場所へインターネット上を移動する。


winnyの仕組みを調べようとしたことがある人ならわかると思うが、これらの特徴はファイル共有機能の部分についてはすべてwinnyにも完全に当てはまる。この文章を書くために読み直してみて、すべてが完全に当てはまることに僕自身が改めて驚いたくらいだ。

freenetのFAQに、なぜ匿名性を導入したかということについて書かれている部分がある。これも引用しよう。


Freenetは言論の自由を実現するものでそれ以上のものではない。それはそれがなければ起きないかもしれない犯罪行為を可能にしたり推奨するものではないし、むしろ犯罪への理解や取り扱いを深めるのに役立つだろう。私達が望むことは専制的な政府の下にいる人々が報復されずに彼らの惨状を説明するのにFreenetを使ったり、あるいはテロリストがFreenet上で彼らがビルを爆破したり飛行機をハイジャックする道を選択した理由をFreenet上で公開することができる。しかしテロリストはいづれにせよ別の方法を使うだろう。つまりFreenet上の文書はNew York Timesへの匿名の手紙のようなものだが---常に公開されている。このような活動がよりオープンになれば大衆はこのような人々や彼らの動機をより知ることが出来るかもしれない。


つまりfreenetの目指すところは言論の自由を保証する情報交換システムだと言っていい。今の日本では、政府が徹底して国民の言論を弾圧する、というようなことはあまり起こっていないわけで、多くの人には(ぼくも含めて)この論点は肌で感じにくい部分かも知れない。ZDNetの昔の記事、freenetプロジェクトのリーダーとRIAA(全米レコード協会)の偉い人の対決の話にいろんな面白い情報が載っている。これを読むと、freenetプロジェクトのリーダーであるイアン・クラークは、本気で言論の自由を守るということを根拠に議論を進めている。freenetは言論弾圧の激しい国で意見交換に実際に使われているなんて話も出てくる。

さて、freenetが著作権について何を言っているかというと、これもFAQから引用すると、


Freenetは著作権の侵害を幇助してしまう可能性があるが、この戦いはすでに無駄になってしまった。非常に多くの著作権のある音楽やビデオファイルはもう毎日web上で取引されている。? それはFreenetが存在しなくても変わらない。加えて複製行為の大半はオンラインではなく昔ながらの産業規模の物理的なCDのプレスなどのオフラインで行われている。


ここでは、freenetを使って著作権の侵害が行われる可能性を否定していない。ただ、そういうことはすでに起こっていることであり、マクロな視点から見れば大勢に影響はないという立場だ。

ちなみに、ネットワーク上での匿名通信に関する研究はかなり昔からあり、一つの分野をすでに形成している。匿名性を研究すること自体は、工学の立場から言えば不思議なことでもなんでもない。この分野の古典はDavid Chaumが書いた匿名メールを実現するためのシステムmixnetについてのもので、とても美しい論文だ。一応リンクしておく(CACMに1981年2月に掲載)。mixnetの考え方は、現在考えられている匿名通信システムのほとんどすべてのベースになっていると考えていいので、これだけ読んでおけばかなりいろんなことがわかります。工学的な観点からの話はまた後日する予定。

★winnyとfreenetのココロ
さて、winnyの作者47氏は、4/11にこう書き込みしている。


個人的な意見ですけど、P2P技術が出てきたことで著作権などの従来の概念が既に崩れはじめている時代に突入しているのだと思います。

お上の圧力で規制するというのも一つの手ですが、技術的に可能であれば誰かがこの壁に穴あけてしまって後ろに戻れなくなるはず。最終的には崩れるだけで、将来的には今とは別の著作権の概念が必要になると思います。

どうせ戻れないのなら押してしまってもいいかっなって所もありますね。


これ以外にも、47氏は著作権についてはたびたび発言している。この発言と、先ほどのfreenetのFAQの著作権に関する記述を比べてみると、基本的には似ていることがわかる。著作権が情報技術の進歩によって崩れ始めているという認識も同じだし、どちらも著作権侵害に使われることを否定していないが、それは決定的ではないという点でも似ている。つまり47氏の考え方は、基本的にfreenetの立場を踏襲していると言っていい。ただし、47氏の発言の方が一歩踏み込んでいる。freenetの方はそのような使われ方を否定していないというところに止まっているのに対して、47氏は積極的に「押す」立場を取っている。

一方、実は、47氏は「言論の自由」という言葉を書き込みの中で一度も使っていないのだ。これはfreenetとは決定的に異なる。47氏はfreenetの仕組みを受け継ぎながら、言論の自由のことは考えていないか、単なるおまけと考えていたのではないか。winny2ではP2P型BBSの機能が付け加えられていて、この仕組みについては今詳しいことはサーベイ中なのではっきり言えない部分もあるのだが、これは匿名掲示板と言うよりは負荷分散掲示板と言った方が正しそうだ。

こんな風にfreenetとwinnyで考え方がずれているは、winnyの出自がWinMXの後継だったからではないかと、僕は考えている。winnyが登場したのは「MXの次はなんなんだ?」というスレの中だったわけだ。WinMXでやっていたことが難しくなってきた、それをどうするんだという文脈で考えられていたわけで、みんなが持っている当然いろんなファイルを共有することが第一の目的として捉えられていたはず。その中で、freenetの仕組みがこれにも使えそうだということで実際に導入してみたということではないだろうか。

★winnyのココロは悪か
というわけで、freenetとwinnyは同床異夢の関係にあったような気がする。freenetとwinnyは設計思想に置いてこれだけ似通っていながら、見ていた夢は全く違っていた。だから、言い訳のしようも違ってくるというものだ。

ただ、だからと言って47氏の方がレベルが低いとか悪いとか言っているわけではない。もちろんそんなことは47氏もわかっていて、言論の自由などの文脈は意識的に捨てたのではないか。むしろ、その違いが何を生んだかということを考える方が、興味深そうだ。ココロが違っているがために、これだけ基本的な設計方針が共通でありながら、設計や実装はかなり異なっている。その差を検証してみることも大変興味深い課題になりそうだ。

winnyの提供が著作権侵害を蔓延させることにあったことは確実だと、ぼくは個人的に思う。いや、ここはあえて肯定的に言ってみよう。47氏は技術的に著作物も含めて情報のコピーと配布が簡単にできるような環境を整備したときに、何が起こるかやってみようと考えていたのであり、その過程で著作権侵害にあたる行為が起こるだろうことも予想していただろうと思う。陳腐な例になるが、ビデオデッキの開発者だって、同じことを考えたろうし、著作権を持つ側に著作権侵害を助長するつもりかと問われたろう。実際、1976年にアメリカではビデオデッキが著作権侵害の道具だということで裁判になっており、その意味でもwinnyと似ている(その裁判では、ビデオデッキによるテレビ番組の録画はフェアユースであり、合法だと言うことで、被告のソニーが勝利した。もちろんwinny裁判とは争点は異なってくるだろう)。winnyのケースが合法かどうかは裁判で決まることだ。

47氏がwinny開発から莫大な利益を得ていたということはなさそうだし(逮捕前にも正体が一定の範囲にばれていた可能性もあるから、何らかの利益を得ていた可能性も否定できないが、winnyで直接的に儲けた人なんてせいぜい出版社くらいだから、もしそんなことがあったとしても報酬は多くなかったろう。単なる想像でどこにも根拠はないが)、報酬もないのに「やってみよう」と思い立っただけで、たった一人のエネルギーでこれだけの動きを引き起こすことは並大抵のことではないから、その点については素直に畏敬の念を覚えざるを得ない。僕が何かをやろうとして、これだけのことを出来るかと言ったら、かなり難しかろうと思う。47氏のやったことが「悪行」であったとすれば、いくら仕事が大きいと言って褒められることではなかろうが、少なくとも彼は合法だと思っていたろう。世界でP2Pソフトウェアの開発者が刑事事件として逮捕されることなど初めてのことだし、KaZaaの例を見ても、訴えられて負けているのは利用者ばかりだ。世界の趨勢は分散型P2Pソフトウェア開発者には法的責任はないという流れであり、今回の逮捕にはみんな驚いているのだから、47氏も合法だと信じていたに違いない。

そういうわけで、47氏は著作権侵害が起こるだろうことを予想していただろうという点では社会的責任を問われるべきだと思うが、そこは自らの行動は合法の範囲であるという考えの基に、あえて自らの考えを示すために行動したわけで、行為を全体としてみるとあまり責める気にはなれないのだ。

長くなってしまった。今日はこんなところで。

コメント(7)| Track back(0) | 2004-05-19 23:28:59

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