「地域経済振興」のために、自治体がその地域の企業から調達を行う場合がある。その際、これは日本のお役所の仕事の性格とあまり合わないことではあるが、自治体はある程度そこで失敗が起こることを前提としておくべきではないか。
★秋田地域IXとその障害
秋田地域IXはそんなことについて考えるよい事例だ。秋田地域IXは去年、秋田が開始したプロジェクトで……。ええい、秋田地域IXについて説明していくと、それだけで書く時間にして1時間くらいかかってしまうので、ここでは次のように説明しておこう。
・去年秋田県が始めた地域IXプロジェクト(計画はだいぶ前から検討されていた)
・準PFI方式を取っている
・秋田県内に本社のある企業にのみ仕事を発注するとした
・去年、2回に渡って大事故(長時間にわたるサービス停止)を起こしていて、議会で問題にされたりした
(そもそも地域IXとは何か、それは必要なのか、どう嬉しいのかなどという議論をすべきなんですが、それをやり始めるととても大変なので今日はやめます。いつかネタが尽きた日にやります。)
実は、結構大きいお金が動くプロジェクトなのにも関わらず、県内企業とのみ契約するとしたことは、かなり画期的だと言える。そういう条件を課したからか、普通なら大手ベンダーやキャリアが取りそうなこの仕事を、地元でこのために新しく作られた中小企業が落札してしまった。それが(株)データコアだ。
最初の事故では、夜半に障害が発生してから復旧するまでに実に9時間も要した。当時のネットワークの設計に冗長性が不足していたこともこの一因だが、こんなに長時間にわたって復旧したのは障害時の連絡体制に問題があったからだった。この障害が起きたのは、データコアに通信キャリアとしての経験が足りなかったからだと言っていい。秋田地域IXのユーザーには地域プロバイダもいくつかあって、そのプロバイダを使っていた一般利用者にも影響が出た。
税金を投下してやっている事業がこんなに大きな障害を起こしたのでは、問題視されたのも仕方がないところがある。県も監督責任を問われるというものだ。
念のために書いておくが、データコアの運用体制は最初の頃とは比べものにならないくらい向上していて、今では最初のようなひどい事故は起こらないだろう。失敗を通じて学んだ形だ。
★秋田地域IXの心意気
僕は秋田県の心意気を買いたいと考えている。秋田地域IXの企画や設計が適切なものだったかどうかは異論もあるところだが、とにかく企画は作られた。それは結構面白い、でも結構難しい仕事だった。普通ならこんな仕事は在東京の大手ベンダーか大手キャリアがやるところだ。それを秋田県は、「秋田県内に本社のある企業しか受注できない」とした。
その仕事で発生する経済効果と、そのプロジェクトを遂行することで生まれる経験を地域内に残そうとしたのだ。これは難しいことだ。なぜなら、大手ベンダーに仕事をさせた方が、役所としては楽だからだ。役所の人にとってみれば、大手ベンダーに頼んだ方が失敗の可能性が少ないし、使う予算は基本的に他人のお金だから多少高くても構わない。もし前例を破って実績のない中小企業に発注して、大きなトラブルでも起ころうものなら、それを決めた役人が何らかの個人的責任を取らなくてはならなくなる可能性もある。とにかく、お役所としては失敗の可能性が小さい方がいいのだ。
(これはちょっとフェアじゃない言い方かも知れない。他人のお金で仕事をするからこそ、失敗ができないという側面だってある。しかも、役人は成功して給料が上がるわけでもなく、何の保証もないままリスクを取れという方が理不尽だ。しかし、そういうことをわかった上であえて上の表現を残しておく)
秋田県は、そういう前例を破って地域に経済と経験を残そうとした。この心意気は買いたい。
日本の地域活性化の議論では、常に地方の金や仕事を東京(の企業)が吸い上げていくという収奪構造が話題になる。情報システムなどの調達では、そういうことが特に強く起こる。問題は、経済的な収奪だけではなく、その仕事をすることで得られる経験も奪われることだ。このことによって、地域内には仕事の経験が蓄積せず、難しい仕事は常に東京の会社に頼まなければできない、という悪循環を生む。秋田県の試みは、この悪循環を絶とうとするものだと言える。
★問題は何か
しかしそういうことであれば、地域の小さなベンチャー企業にこの仕事を任せることは、リスクが高いとわかっていたはずだ。地域内に仕事を出すということは、リスクと引き替えに地域内に経験を残すということなのだから。それなのに、秋田県は地域内の小さなベンチャー企業を、大手ベンダーと同様に扱い、契約を結んだ。最初からリスクがあることを折り込んでおくべきだったのではないか。事故は起こらないに越したことはないが、最初から想定されていればスムーズに対処も出来ようというものだ。
僕が秋田地域IXの事故の概要を聞いたときに、最初に思い浮かべたのは岡山情報ハイウェイの事例だった。岡山情報ハイウェイもやはり地域IXであり、自治体所有の通信インフラの中では初めて自設光ファイバで構築されたものである。岡山情報ハイウェイは「実験」として始まり、最初の3年間は「実験だから止まったり、構成変更で不安定になっても許してください」と言いながら運用していたのだ。その間に、その運用を担当する地場の第三セクター企業は経験を積み、本運用に入ってからは基本的に安定運用できた。
現在ではそのころより世の中のスピードが早まっているので、そんな悠長なことは出来ないかも知れない。しかし、リスクを前提としたやり方はいろいろ考えられるだろう。例えば、サービス開始からしばらくは緩やかなSLAを結んでおき、時間が経過したら標準的なSLAにするという方法もあるかもしれない。
地方自治体が地域活性化のために、地域内で仕事をさせるということには、原則としてとても賛成で、どんどんやるべきだと思う。ただ、それにはメリットがある一方、今までになかったリスクもある。それを前提に制度を設計すべきだ。
コメント(0)| Track back(0) | 2004-05-12 23:45:24
コメントは投稿されておりません。
<< winnyを前向きに考えよう、つづく winnyの墓標? >>
Powerd by News Handler
本サイトは、いしばし(国際大学GLOCOM)がやってます。