[くまをとる]

時代の変化の速度について

大昔にGLOCOMの公文俊平代表のS字波理論に触れたとき、とてもびっくりしたと同時に大きな疑問が起こった。S字波理論がどういうものであるかをここで長々と説明するのは無理なので、公文先生の新著、『情報社会学序説』を見て頂くか、公文先生自身が書いた記事を参照して頂きたい。要するに世の中は大きな「周期」で動いており、その1つの周期は大きく「出現」「突破」「成熟」の3局面にわけることができること。そして各局面はフラクタル的に一つの波になっており、それぞれの中にも「出現」「突破」「成熟」の3局面が現れるというものだ。フラクタル的構造になっているので無限に大きい波と無限に小さい波を想定することができるが、もちろん人間の歴史は高々数千年なのであまり大きすぎる波を想定しても意味がないし、社会変化を捉える道具としては、あまり小さすぎる波を使っても仕方がない。(実際には、公文先生の最近の議論では主要な3局面の前に「形成」、後に「定着」という2局面を足し、5局面での議論になっている。)人が人生の中で体験できそうな最大の波の周期は、公文理論によれば60年だ。

最初にこれを聞いたときに感じた違和感は、「社会の動きはどんどん加速しているのに、どうして周期は替わらず60年なのか?」ということだった。300年前に生きた人が一生に感じる変化と、現代を生きる人が一生に感じる変化は同じだろうか。現代を生きる人の方がはるかに変化に追いまくられる生活を送っているに違いない。社会が進むに従って、蓄積される情報は爆発的に増えていく。研究者はそれぞれ別の巨人の肩に乗って、領域を分化させながら知識の裾野を広げていき、誰が何をやっていて、人類は何をしっているのかを一個人が知ることは難しくなっている。知識生産も新しい技術の登場も加速度的に早くなっている。

僕は当時インターネットの技術を中心的に扱う研究室にいたが、そこで触れたインターネットの発展の10年間は、本当に驚きの連続だった。今から見れば、ほんの15年前にはそれはエンジニアのおもちゃだった。10年ほど前には、「インターネット」という言葉を表紙に使っている本は全部買って読むことができたし、新聞に記事が載ればみんなで読んだものだった。それが今ではどうだ。インターネットは目の前であっというまに社会基盤になり、人の生活に溶け込んでいった。それによって、技術的に出来ることも変わったし、人の振る舞いも変えた。インターネットほどではなくても、新しい技術は社会にどんどんに現れてその一部は社会に取り込まれていき、生活を変えている。こんなことは300年前には起こっていなかったろう。人は生まれてから死ぬまで、ほとんど同じ人と道具と環境に囲まれていただろう。それなのになぜ局面の移り変わりの周期は昔と今とで変わらず60年なのか。この違和感を解く鍵は人間だった。

つまり人間の入れ替わりが周期を決定しているのではないか。(というような意味のことを、ずいぶん前に僕が素朴な質問をぶつけたときに、公文先生は答えてくれた) 社会の諸要素の変化は大きくても、人間に染みついたものの考え方は変わらない。同時代に生きた人たちは同じ社会で似たような価値観を身につけ、その中で育つ。その人たちが入れ替わらない限り、社会の根本原理は変わらないというわけだ。逆に、人間が入れ替わったとき、社会はそれまでの技術的変化や社会的な蓄積を吸収して、根本的に新しい世界が生まれるというわけだ。

ちょっと古い話になるが、江島健太郎さんがCNET Japan Blogでこんなエントリを書いている。このエントリのテーマは江島氏が初めに書いているとおり、「ようするにテクノロジーが社会の根源的価値観を揺さぶることの不安ってことが後にも先にもおいらの関心事なのさ。」ということだ。彼は技術が社会の根本を変えることを「不安」と呼びつつも、それをとても楽しんでいる。このエントリで江島氏は、情報技術がだんだん、社会の根本を変える「ヤバそう」なものから、単なる便利さを追い求める小利口でつまらないものになってきていると言う一方、それでも技術の発展はそれが本当に重要なものなら、社会を根本的に変えるだろうと言っている。そしてその変化はやはり人生の長さによって影響を受けており、世代交代でしか真の変化は起こらないだろうと述べている。語り口は違うが、根本的なところでは公文先生と同じ考え方だろう。

我々の身の回りではたくさんの変化が起こっている。その中でどれが表面的な変化であり、どれが根本的な変化かが重要だ。インターネット技術の普及は、後世から見れば決定的な変化の一つになるだろう。しかし、その社会的な影響は日本へのインターネット導入から15年、商用化から10年目にして、ようやく本質的なところで現れてきつつあるのではないかと思える。

コメント(0)| Track back(0) | 2004-12-28 21:57:09

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