[くまをとる]

winnyと政府のタテマエの関係

政府とwinnyの関係ってなんだろう。ということを、改めて整理してみる。どうも、日本政府はwinnyをなんとかしないといけないと思いながら、うまく扱えないでいるようだ。

前回の記事に、非常に多くの方からコメント頂いた。ありがたいことです。年度末でバタバタしていたこともあって、久々のエントリです。

前回のエントリへの最初のコメントは、「政府はWinnyと戦争してたんですか?」というものだった。こういうコメントが真っ先に来るということは、おそらく僕の説明がうまくいってなかったってことなんだろう。というわけで、今回は「政府とwinnyの関係」を中心に、いくつかのコメントも参考にしながら前回のエントリを少し違う形で整理してみる。

結論から言ってしまうと、実際問題として、この「winnyが巻き起こす諸問題」については、一枚岩の主体としての「政府」というものはない、んだろうと思う。政府の中のいろんな人、いろんな部署が、いろんな立場で様々なホンネを持っている。このことがまた問題をややこしくしている。なぜなら、タテマエとして政府はあまり矛盾したことは言えないからだ。

★著作権侵害と情報漏洩:違う問題・違うホンネ

細かい検証はさておき、非常にざっくりとこれまでの経緯を見てみよう。まずwinny開発が宣言されたのが2002年4月。実際にリリースされたのが5月だ。それからどんどんwinnyは広まっていき、著作権侵害を理由に利用者逮捕に至るのが2003年11月。わずか1年半前後のことだ。金子氏はこの捜査の過程で警察の家宅捜索を受け、京都府警に対しこれ以上のwinnyの更新を行わないと約束したとされる。この時点で、winnyの開発はいったん終了する。さらに、2004年5月には著作権侵害幇助の疑いで、金子氏自身の逮捕に至る。

さて、情報漏洩についてはどうか。Antinnyの存在がニュースになったのはようやく2003年の8月だ。このころにはもう京都県警は捜査を進めていたのではないか。つまり、警察・検察がwinnyをどうにかしようとしていた頃、「winnyは著作権侵害装置である」というのが一般的な見方だった。Antinnyの亜種の報告があったのは2004年3月で、このころから非常に多くの亜種が登場し始める。俗に言う「キンタマウィルス」はAntinny.Gで、3月終わりに報告されている。京都府警の個人情報流出が話題になったのもこの頃。Internet Watchの「本誌記事に見る“Winny流出”」という記事をみればあらましがわかるが、この後流出事件は続く。(特に、2005年末頃からが多いが、これはこの時期から「あら探し」が始まったのだろう。おそらく公表されていない漏洩事件はもっと多いはずだ。)2006年3月にいろんな動きがまとまって出ている。理由は多くあろうが、政府関連での一つの引き金は、警察庁が私物PCでもwinnyの利用を禁止を通達したことだろうか。一部県警では全職員に「winnyを使わない」という誓約書まで書かせている。誰から見ても、異常事態だと言える。(最近話題の山田ウィルスをはじめ、情報漏洩はwinnyだけで起こるわけではないし、情報漏洩以外の被害をもたらすwinnyで流通するウィルスものもある。が、本筋から外れるのでここでは扱わない。)

著作権侵害が問題になった時期と、情報漏洩が問題になった時期はずれているのだ。

★過去とタテマエに縛られる

さて、前回のエントリで僕が勝手に挙げた提案を再掲してみよう。(一部加筆)

・「国益のために超法規的措置として」金子氏への起訴を取りやめ、金子氏がwinnyをアップデートすることを可能にし、ウィルス対策のための機能を追加することを求めること
・国内に出回っているウィルス対策ソフトを開発している企業に協力を仰ぎ、必要ならば国費を投じること
・公的機関で調査用のwinnyノードを多数上げ、著作権侵害をしているものを含め多くのファイルを実際にダウンロードし、ウィルスが潜んでいるかどうかを調査して、ウィルス対策に活用すること、および情報漏洩を早期に検知すること

もし警察が著作権侵害を理由にwinny利用者や開発者を逮捕していなければ、つまりもし、winnyを悪玉扱いしていなければ、情報漏洩問題に対して上の措置を取ることは合理的じゃないだろうか。もし、winnyが悪玉でなければ、winny利用者や開発者と政府が、積極的に連携を取ることもできたろう。警察・検察が過去にとった態度で、今できることが縛られてしまっている。(三つ目の提案については、著作権上の問題を含んでいるので少々問題が残るかもしれない。だが、著作物をダウンロードするのが、人間が楽しむためではなく、ウィルス対策ソフトで検査をするためだけであれば、この問題をクリアできないだろうか? 今度は「通信の秘密」の問題になってしまうかもしれないが……。)

逆に、徹底的に悪玉だと決めつけられるのであれば、winny自体を非合法化して取り締まってしまうという方法もあり得るだろう。現状のwinnyの(限定的な)匿名性などは、「使っているかどうか」を隠すのにはほとんど役に立たないので、もしすべてのwinnyノードを特定して摘発しようとすれば、十分可能だろう。しかし多くのタテマエに縛られて、これもできない。もちろん、これが簡単にできない国に住んでいて幸せだと思う。

政府が白旗を揚げなければならないところまで追い込まれたのは、政府が過去に取った立場やタテマエを守らなくてはいけない存在だからだ。

★根深い問題

この話をたどっていくと、政府というものは、そもそも新しい問題に対処するのが苦手なのだということに行き着く。政府の行動の裏には、さまざまなホンネがある。「情報漏洩蔓延社会になっては困るから、winnyのようなソフトは排除したい」「気軽に著作権侵害できるようなソフトは排除したい」「どんな人も、新しいソフトを勝手に作る自由は確保し、技術の発展を阻害したりしたくない」「通信の秘密は守らなくてはならない」「デジタル情報の流通を活性化させて、国全体が情報化から受ける恩恵を最大化したい」などなど。さまざまなホンネの狭間で、タテマエに照らしてもおかしくないことだけが、政府の行動として表れてくる。

古い問題であれば、「あのホンネよりもこのホンネの方が大事」というような社会通念がすでにあるので、それをよりどころにしてタテマエを作れる。しかし、新しい問題の場合には、なかなかうまくいかない。政府はタテマエを壊せないので、古いタテマエに照らしておかしくないことしかできない。

今起こっているのは、政府とwinnyの関係の中で起こっていることは、こういうことじゃないだろうか。どうしたらいいかはわからないけれど。

コメント(3)| Track back(0) | 2006-04-03 19:49:56

■ NO TITLE
前のエントリにもコメントしましたが、情報漏洩と情報流出の定義をはっきり示した方がいいと思います。
漏洩に関しては持ち出し禁止情報を外部に持ち出した時点で発生していると思うのですが。
例えば、その情報に接する資格のある人間であってもその人物の立場が会社に出社中と出社していないときでは違い、出社していないときはその情報に接する資格はもっていないはずなので、そのときに情報を閲覧することは漏洩にあたるはずです。

>情報漏洩蔓延社会になっては困るから、winnyのようなソフトは排除したい」
なんて意見は漏洩と流出を区別していないから出てくるのでは?
Winnyは経路、ウイルスは流出、使用者が漏洩を担当してるわけですから。
らぃ (2006-04-10 10:45:31)


■ 肝心なことを忘れてました。
っと、私の情報漏洩の定義は以下のとおり。

その情報(以下A)に接する資格のない人間がAに接すること。

情報流出の定義は

その情報(以下A)に接する資格のない不特定多数の人間にAが閲覧可能になること。
らぃ (2006-04-10 11:03:04)

■ NO TITLE
なるほど、漏洩と流出の違いについては、あまりしっかり思いが至っていませんでした。
らぃさんの定義では、「不特定多数」かどうかがポイントな訳ですね。確かにそれは念頭に置いておく必要があるかもしれません。

多分、流出した場合、漏洩は確実に起こっているわけですね。ただ、「流出」は、それが不特定多数が閲覧可能になるとは限らない。漏洩は流出のサブセットにあたるわけでしょうか。

ご指摘ありがとうございます。以後、すこし気をつけて言葉を使ってみます。
いしばし (2006-04-14 23:25:11)

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